愛と革命の希少蟹。ディープシークラブ@五反田

「LIKEにはなれても、LOVEには……なれない」

交際相手からそう言われ失恋したのは、16歳の秋だった。同じ高校に通う他クラスの男子に一目惚れし、学校の外廊下に呼び出して告白して始まった交際。初めての彼氏だった。

放課後に待ち合わせて一緒に下校し、デートでプリクラを撮り、ショッピングセンターをあても無く歩き(地方なので大体知り合いに出くわす)、駅前でカッコつけて弾き語りをする音痴な彼を見に行く……そんな清い交際。
スマホはおろか、携帯がようやく普及し始めた時代、ガラケーをパカパカさせながら彼からのメールを待ってセンター問い合わせを連打したものだ。
たった1ヶ月だけの交際ではあったけれど、それは大人になっての1ヶ月よりもずいぶん濃い日々だったように感じられる。

ある日の昼休憩、いつもなら中庭で逢い引きするところをなぜか階段の踊り場に呼び出された私は、(もちろんあの頃存在してはいなかったものの)「ぺこぱ」の松陰寺太勇さん的なキザ仕草で頭をふり、髪をかきあげる彼から「話が…あるんだ…!」と冒頭の言葉を伝えられた。

ーー LIKEにはなれても、LOVEには、なれない ーー

あまりのショックで午後の授業は全く手につかず、錯乱状態で「LIKEとLOVEの違いについての考察」という文章を現社の授業中に400字詰め原稿用紙5枚に書きなぐり、あふれる感情を抱えきれずクラスメイトに回付したところクラス中がざわつく反響となり、教師にバレて怒られるかと思いきや大々的に慰められた記憶がある。

 

あれからいくつもの恋愛を乗り越えてすっかり私も大人になってしまった。
ある晩、冒頭の彼ではないが、現在よき友人となった元彼から「変わった美味いもん食べにいこうぜ!」と連絡が来た。

そういえばこの元彼も「僕たち恋人より友人の方が上手くいくと思うの」と破局した相手である。
元々長いこと友人だったので、恋人としての距離感が掴めずぎくしゃくしていたところの「LOVEではなくLIKE」宣言だったのでこれについては円満破局となった。
ちなみに余談ではあるが、別れ話をしたのは「羊肉を巡る冒険」に記載したラムしゃぶの店である。ちなみにというか、ここまで全部余談ではある。

話を戻そう。

 

「変わった美味そうなもの」の候補で5店舗ずつデュアルをした結果、私が気になっていた「南アフリカの深海蟹専門店」に行くことに。
たまたま予約時に居合わせた会社の後輩が「えー蟹いいなー私も行きたーい」と声を上げたので、急遽元彼&会社の後輩&私、という謎トリオで店に向かう。

 

ディープシークラブ

「ディープシークラブ」という店名の響きが、かつて流行ったケータイ小説「Deep Love」を彷彿とさせる。私だけ? 私だけか???
名前に“ラブ”が含まれている店で、元彼と食事……(後輩もいるけど)。
どうでもいいことにセンシティブになっちゃう今日この頃。いや、まぁ、考え過ぎか。

LOVEとCRAB、韻は踏めても字面が違う。頭を振って無理矢理に思考を追いやる。

五反田駅から数分歩いたところに、その店はある。

店内は明るく清潔でカジュアルな雰囲気。

メニューの説明書きによると、「ケープタウン沖600mの深海に棲む『ディープシーレッドクラブ』は漁獲量が少なく、希少な蟹」とのこと。
日本でも食べられるのはこの店を含めて数店しか無いという。
蟹と言って真っ先に頭に浮かぶのは、タラバガニやズワイガニや毛ガニだろうか。
何となく冬の荒ぶる日本海が脳裏をよぎる。一般的には高級なイメージの蟹だが、こちらはとてもお手頃。

南アフリカの先っちょ、ケープタウン沖まで行くとなると、グーグル先生曰く「片道21時間、12万円〜」
それが山手線で気軽に食べにいけるのだからありがたい。

メニュー表の「ウェルカニ」。おちゃめ。

 

コースターやカトラリーもキュート。

お店の説明によると「『ディープシーレッドクラブ』は深海に棲むので天敵が少なく、身がふっくら豊かな味わい」らしい。期待が高まる。

初対面同士の元彼と後輩は、互いの距離をはかりつつ何を頼むべきかと悩んでいたので、とりあえずコースでGO。

気になるメニューが含まれていたライトコース(¥3,980−税別)を注文。足りなければアラカルトで追加すればいい。

ビールはいくつか種類があったので、海を感じさせるフィジーのものをチョイス。

全4品のコース、まず1品目は「カニのセクション盛り」だ。

運ばれてくるなり歓声が沸いた。

3人前の蒸しガニが盛られている。食べやすくカットされている配慮がありがたい。

さっそくむさぼり付くや後輩が「うまーい!!」と声を上げた。

確かに肉厚で、味が濃くてジューシー!
「これ無限にいけそう」「あとで余裕あったら追加しよう」と頬張る。
美味い物は、我々奇妙なトリオをもアイスブレイクして繋いでいく。

 

2品目は、「シェフこだわり本日のシーフードサラダ」

…失礼ながら、正直サラダには期待していなかった。
(コースに含まれるサラダなんて、どうせ葉っぱちぎって、トマト散らして、海鮮の切り落としでも入れてる程度でしょ…?)的な先入観をたぶん3人とも持っていた。ゴメンナサイ。

でもだからこそ、これが運ばれてきた瞬間、いい意味で予想を裏切られ、思わず全員が興奮につつまれた。

届いたサラダは魚介がゴロゴロ、ムール貝にイカ・タコ?、マグロのあれ、とびっこも乗っている。10種類くらい入っていたけどあとは忘れた。ピリ辛のドレッシングにセロリのアクセントもたまらない。美味!よく見るとトングの形が魚。かわいい。

取り皿も魚の形でかわいい。

そういえば机にこんなメモがあった。おすすめしてくれていた。親切だ。

3品目は「カニ入りフカヒレスープ」

優しい出汁の味わいに、たっぷりの具材。癒される。
「コレマジで飲めますね!!」と後輩が言ったが、スープとは飲む物である。

この頃になるとすっかり元彼と会社の後輩は打ち解け、いくつもの趣味の合致に盛り上がったりしていた。

 

4品目「カニピラフ」

実はこれが一番食べたくて気になっていた。
16穀米を使用しているためヴィジュアルのインパクトが強い。

一口目で「美味い!」がきて、3人で目を見合わせる。16穀米独特のプチプチとした食感。蟹の身もたくさんで味がしみ込んでいる。

けれど、それだけじゃない“謎の旨味”が口一杯に広がり……これは……これは一体……。

メニューには「ヒミツの隠し味」と、もったいぶって書いている。

あまりの美味さに、隠し味が一体なんなのか、協議が始まるレベルだった。

退店時、どうしても気になって店主に「ヒミツの隠し味って何ですか」と聞いてみたら、ヒミツですよ…とその答えを教えてくれた。
仁義のため敢えてここには書かないが「あぁ、なるほど道理で!」と納得。

4品のコース、少ないかと思われたが、お腹いっぱいなのか胸いっぱいなのか、謎に満たされていた。
(とは言え、いまメニューを見直すと「カニミソにんにく炒め」をなぜ頼まなかったのか悔やまれる。次回絶対に頼みたい)

LIKEだのLOVEだのどうでもいい。
LOVEよりCRAB。それが答えだったのだ。

ニコニコ顔で、元彼&会社の後輩と店を後にした。

 

なお、冒頭に記載した初めての彼氏とはすっかり疎遠だが、風の噂によると、某大学院を卒業後に起業したそうだ。
現在は「生まれ持った透視能力」を活かした、スピリチュアル系ハッピー・サクセス・コンサルタントとして活動しているらしい。
ヘイユー、透視能力なんて持ってたっけ。いつ身につけたんだ。あの頃は秘密にしてたのかな??

まぁ、いずれにせよ、彼なりのLOVEを見つけられていたらいいなと思う。

ふと懐かしくなり、本棚の奥からほこりをかぶったプリクラ帳を取り出してみると、蟹のごときピースサインの私たちが写っていた。

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たかこむ

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食欲の魔物にとり憑かれている、都内の酔っ払いOL。

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