ホルモン足りてますか?コスパ抜群、塩ホルモンさとう@中野
今は昔——。
就活中、企業からの問いに「自分を漢字一文字で表現しろ」というものがあった。
有名な広告代理店だ。
少し悩み、「塩」と答えたのを覚えている。
「塩は使い方により意味合いを変える。料理の調味料としてはもちろんのこと、人を引き寄せる盛り塩にもなれば、浄めの塩にもなる。私が御社に採用されればきっといい塩梅に作用するはずだ」
……要するに自分の汎用性の高さをアピールしようとした訳だ。
私の答えを聞き終えた塩顔の面接官(綾野剛似)は表情を変えず
「言葉を返すようだけど。これって今の君じゃなくて、こうなりたいっていう、ただの理想でしょ」
と突き刺すような視線で私を見た。
なんという塩対応。なんだかんだ結局その企業は落ちた。
確かに、自立出来ていない学生の身分で——就活という自己アピール戦線の中で頭が逝っちゃっていたにしても——思い上がった発言だったとは思う。今は思い返すだけでも恥ずかしく、枕に顔を埋めてジタバタしてしまう。
過去に別れを告げるべく、今回は「塩」にまつわるお店を紹介しようと思う。
中野駅を南口に出て、飲食店を流しながら歩くこと数分。
「塩ホルモン さとう」
カオスタウン中野にしては、こざっぱりとしたキレイめな外観。
足下に目をうつす。
「ホルモンでお困りじゃありませんか?」の文字が心をうつ。私に足りない物はこれだったのかもしれない。
清潔感のある店内、二階に案内されたが、間仕切りがあっていい感じ。関係ないけど店員さんが美人だ。
何を飲もう、とメニューを見ると、ドリンク全品500円の文字。白州ハイボールも、プレモルの黒も!
とりあえず友人と乾杯してキムチをつつき、適当に肉を注文していく。
何と肉もほぼ全品500円(税込)! これは頼みやすい。
さて店名にもあるように、ここは塩ホルモン屋。机の上を見ても、一般的な焼き肉屋に設置されているタレのごとき物は無い。
唯一置いてあるのは唐辛子。これでアクセントをつけろ、というメッセージなのだろう。
塩のみで商売するということは、肉に自信があるという証拠だ。胸の高鳴りに合わせて空腹がグー、とビートを鳴らす。
一方で「全品500円という価格設定なのだから期待しすぎるのはよくない、それなりの量か質なんじゃないの」などと思っていた我々なのだが……。
届いた豚タンにまず歓声をあげることとなった。
これ、もはやタンの、タンの活け造りといってもいいのでは……!
生ラム肉の肩ロース、ハラミ、リードヴォーも続々届く。
リードヴォーって何?と聞くと、仔牛の胸腺とのこと。食感はしびれに近い感じで柔らかい。
「レアでも食べられる」と銘打っているラム肉は、臭みもなく食べやすかった。
厚切りな肉は食べ応えも十分。
ミックスホルモン(これはタレだった!)やエリンギなどを中盤にいれる。
そしてWホルモン。
個人的には油がガッツリ乗っているホルモンが大好きなのだけど、塩で食べるとなるとこれくらいのスレンダーなホルモン(という表現が合っているのか不明だが)がちょうどいい。
当初は物足りなかったらどうしようとこっそり懸念していた、塩とオリーブオイルの味付けも、肉の旨味を楽しむことが出来て十分に美味しかった。
熊本県産 赤牛のトモバラ(これは1000円)。ゆずこしょう、マスタード、わさび、塩が選べる。サッと火を通してぺろり。間違いなく美味しい肉。
ちなみにライスは一杯無料でついてくる太っ腹だ。
そろそろ〆、ということで、ここで極上牛トロ飯を注文!
醤油にわさびを少々溶かし、かき込む。
ああ〜〜〜幸せってこんな味だよね!!!
肉のおいしさ、何よりコスパの良さに感動して店を後にした。
さて、就活時代の話だけれど、青菜に塩とばかりに就活にしょげてしまった私は、修行に出、最近めっきりログインしていないmixiにポエムを書き連ね、ネットアイドルを目指すなどなどの黒歴史 紆余曲折があった。
いまは他業種でOLをしているけれど、私を落とした代理店がコンペで来社しているのを見かけることがある。憧れと苦々しさの入り交じった気持ちは多分ずっと消えることはない。
けれど もし何かの偶然で、あの面接官、綾野剛似に会ったときは、とびきりの笑顔で挨拶しようと決めている。逃した魚の大きさを知るがいい。
そして、もしも一緒に仕事をすることになったその時は、敵に塩をおくってやってもいいかな、とも思っている。