尖鋭のグルメ - NYC帰りの男 -
世にグルメサービスは数多有れど、自身の嗜好に合う店は中々見つからない。
ある日、そんな悩みを解決する方法を思いついた。
(散々旨いもんを食べてきた人に、嗜好と合致した店を教えて貰えばいんじゃね。)
そう思ったものの、特に好き嫌いの無い自分は3つの指針を立てた。
尖った奴が通うメシ屋は尖ってる。
そんな持論を検証すべく、新宿のゴールデン街へ向かった。
シャンプー というバーの止まり木に腰掛け、ぼくは口にした。
「なあゴトウ、おれが好きそうなメシ屋を紹介してよ。」
無職だった彼をここの店長職に推薦したのは、ちょうど一年ほど前だった。
※画像はJAPAN TIMESより。 ゴトウの記事へLINK
NYCで名の通ったSAKE BARの店長だったが、痴情がもつれ瀕死の状態で帰国。
左半分が長髪、右が剃髪で常に着流しというアヴァンギャルドなルックスだが礼節のある好青年だ。
ぼくの3つの指針はいたって単純。
- ひとり込々4,000円で満足に飲食できる店。
- 自身も実際にリピートしている店。
- 尖ったグルマンを紹介してもらうリレー形式。
これで最強のおれ用グルメマップが出来上がる算段だ。
当たり前だが飲食代は全てこちら持ち。安心してくれていい。
ゴールデン街にある割烹。
雨の降る夜に呼び出されたのは、シャンプー同様のゴールデン街にある店だった。
割烹と聞いた筈だが、80年代に流行ったマンションバーの様な扉。
ノックするも返事がなく、意を決して扉を開ける。
予想を裏切る空間。思った以上に広い。
なぜか店内でサングラスのゴトウが微笑を浮かべ「遅いわよ」と悪戯っぽく言った。
まだ何か続けそうな彼を遮って、ぼくは生ビールを頼みながら席に着いた。
「ここからはゴトウに全て任せるから、頼むべき逸品を中心に予算内で注文してくれよ。」
そう伝えて、ビールで勢いよく喉を鳴らした。
先付は白子と豆腐の餡かけ。これからの料理を期待させるに充分すぎる旨さだ。
燻製ハムと黒胡椒のポテトサラダ。ビールがすすむ。
うるい(山菜)。恥ずかしながら初めて口にした。
ゴトウがいつも頼むというだけに、癖になる食感と味。
トウモロコシの天麩羅。サックサクだ。
口のピアスは着けたまま食事するのか…。舌にもあるらしい。
嫌いだった銀杏を旨いと思える様になったのはいつ頃だろう…。
ふと、一年以上前のゴトウの事を、何も知らない自分に気付いた。
彼はどんな子供だったんだろう。そんな素朴な疑問にとつとつとゴトウは答えた。
「あたし18で上京するまで、デブでいじめられっ子だったの。」
180センチを優に超えているが、現在の体重はたった50キロの痩身である。
「ガリガリじゃないですか先輩。いっちゃってください。」
そう言って、最後の和牛ひと切れをゴトウに促した。
ぼくはダイエットに関心がないので、痩せた手法は聞かなかったが、興味のある人は木曜日以外の シャンプー へ行くといい。
JAPAN TIMESに取上げられる ほど日本酒に詳しいゴトウが、連夜、暴飲暴食しても体型を維持できる秘訣を教えてくれる筈だ。
いつの間にか日本酒へ切り替えたゴトウ。
まずはサングラスでなくなった事を突っ込むべきか。
抜群に旨い烏賊の醤油漬けで〆。
果たしてお会計は…。
写真を失念したが日本酒を二種類、一合づつ頼んでいる。
込々で7,890円。確かに満足な内容。
職場が近いとはいえ、週に4日も通うのが納得できるクオリティ。
何よりもゴールデン街でこんな真っ当な和食が頂ける事に驚いた。
有名なグルメ投稿サイトでも口コミはたったの二件。
埋もれた優良店は、まだまだごまんとあるのだろう。
新宿区歌舞伎町1-1-5パレスビル2F/03-3232-6177
尖った奴が通うメシ屋は尖ってる。どうやらこの仮説は正しい様だ。
次回予告。
尖鋭のグルメ - 隻脚の美女 -